「増殖」と「養殖」
先日から1F「サケのミニふ化場」で、新潟県内水面水産試験場魚沼支場様のご協力により魚沼美雪ますの稚魚の展示をスタートしました。
魚沼美雪ますは、ニジマスのメスとイワナ(アメマス)の偽オスを交配させ人工作出した県内魚沼地域ブランドの食用マスです。
新潟県内水面試験場が10年以上かけて開発し、平成18年から魚沼地域の生産者が養殖に取り組んでいます。
魚沼美雪ます(「サケのミニふ化場」より)
ところで、イヨボヤ会館の展示の中に散見されるキーワードに「増殖」という言葉があります。
「村上藩は世界で初めてサケの自然ふ化増殖に成功した土地です。」
「三面川で行われるサケ漁は、人工ふ化増殖を目的に行われています。」 等々…
イヨボヤ会館ではこの「増殖」という言葉を展示キャプションの中で意識的に「養殖」と分けて使っています。
しかし「増殖」という言葉は「養殖」に比べて一般的に馴染みが薄く、「ご来館の皆様の中には混同されている方もいらっしゃるかもしれない。」と以前から個人的に考えていました。
養殖品種の魚沼美雪ますが展示の仲間入りをしたこの機会に、「増殖」と「養殖」という言葉の定義の違いをあらためて説明していこうと思います。
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『大日本百科事典(ニッポニカ)』の「水産増殖」の頁には、以下のような記述があります。
【水産増殖】
有用な水産生物の繁殖と成育を助長・促進させ、水域の生産力を利用して、それら生物の生産を維持し、増大することで、次の三つに大別される。
(1)禁漁期・禁漁区などのように、漁業に各種の制限・禁止をなし、水産資源の維持を図る。
(2)水産生物の種苗を移殖・放流して資源を増大する。
(3)水産生物の生息環境を改善・造成・管理し、水域の生産力を利用しながら、それら生物の繁殖と成育を助ける。
[出口吉昭]
【水産養殖】
一定のくぎられた水域内で、有用な水産生物を販売可能な大きさにまで育成する。(中略) 水の利用方法により止水式、半流水式、流水式、循環式、水面の区画方法によって網生け簀(す)、網仕切り、箱生け簀、構造によって築堤式、支柱式、小割り式に分ける。水の性質により淡水養殖と海面養殖または鹹水(かんすい)養殖、水の温度により温水魚養殖、冷水魚養殖とよぶ。
[出口吉昭]
(引用元 「コトバンク」 https://kotobank.jp/word/%E6%B0%B4%E7%94%A3%E5%A2%97%E6%AE%96-1345423 、2024/2/4 閲覧)
かみ砕いてまとめると…
増殖(水産増殖)とは: 漁で獲りすぎないようにしたり生息環境を整えたり稚魚を放流したりすることで、自然界の生物の繁殖と生育を助けて増やしていくこと。
養殖(水産養殖)とは: 囲われた場所で、生まれる前から販売可能になるまでを人の手で飼育すること。
というような趣旨になります。
ふ化から稚魚に成長するまで育てたのち放流する「増殖」に対し、飼育下で一生を送る「養殖」の手段の違い。
そして「増殖」の目的が自然資源の維持と増大にあるのに対し、「養殖」は営利目的なことにも際立った相違点があるようです。
この定義に則り、海に回遊するサケやマスの生育の一部を人間が助けることは「増殖」に分類されます。
その上でイヨボヤ会館では更に、江戸時代に村上藩行われたサケ(シロザケ)の繁殖期の禁漁と繁殖環境の整備——所謂「種川の制」を「自然ふ化増殖」事業、明治~現代に至るまで行われているふ化放流の取り組みを「人工ふ化増殖」事業と区分し呼んでいます。
一方養殖業界では近年、日本各地で「ご当地養殖サーモン」が脚光を浴びており、今回展示を開始した魚沼美雪ますもその一つです。
人の手で管理され育った養殖サーモンは寄生虫がいないため安心して生食することができ、レシピの幅も大幅拡大。
サケを愛する日本人の味覚を全国で愉しませています。
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今回、「増殖事業」で保護されてきた三面川のサケと、魚沼美雪ますという「養殖品種」とを並べて展示することで、より一層「増殖」と「養殖」との違いについて考えを深めていただける形になったと思います。
イヨボヤ会館にお越しの際は、是非このポイントに注目して魚たちを観察してみてください(*´﹀`*)
※「水産増殖」という語には「水産増殖」と「水産養殖」の意味を総括して広義の意味とする場合もあります。